朝、目が覚めた。
目覚ましは鳴っていなかった。
止めた記憶もなかった。
スマホを見ると、午前6時43分だった。
早いと思った。
でも、もう一度眠る気にはならなかった。
布団から出た。
立ち上がれたことに、少しだけ安心した。
その直後、何のために起きたのか分からなくなった。
キッチンへ行った。
冷蔵庫を開けた。
昨日買った食材が入っていた。
「今度こそちゃんと食べよう」
昨日、店を出る前に自分で言った言葉だった。
袋を持った。
まだできるじゃん、と思った。
少し笑った。
その数秒後には、こんなことすら続かないのかと思った。
袋を戻した。
冷蔵庫の扉を閉めた。
閉まる音が、やけに大きかった。
水を飲んだ。
冷たかった。
ちゃんと味がした。
そのことが少し怖かった。
もう一口飲んだ。
今度は何も思わなかった。
スマホが光った。
「最近どう?」
返信画面を開いた。
「元気だよ」
消した。
「ちょっと疲れてる」
消した。
「また連絡する」
そこまで打って、画面を伏せた。
数分後、また見た。
何も変わっていなかった。
少し安心した。
少し腹が立った。
洗濯機に服を入れた。
洗剤を入れた。
ボタンを押した。
水の音がした。
回り始めた。
ちゃんとしているみたいで、少し気分が良かった。
そのまま洗濯機の前に立っていた。
しばらくして、自分が何を待っているのか分からなくなった。
部屋へ戻った。
床には昨日脱いだ服が一枚だけ残っていた。
拾わなかった。
机には開けていない封筒があった。
宛名を見る前に、裏返した。
読みかけの本が開いたままだった。
何ページだったか確認した。
閉じた。
すぐにまた開いた。
同じページだった。
テレビをつけた。
知らない人が笑っていた。
料理を作っていた。
旅行先の海が映った。
綺麗だった。
しばらく見ていた。
急に消した。
静かになった。
またつけた。
今度は画面を見なかった。
音だけが部屋に残った。
コンビニへ行こうと思った。
財布を持った。
靴下を履いた。
玄関まで行った。
靴を片方だけ履いた。
そのまま座った。
外で誰かが階段を降りていった。
鍵の音。
ドアが閉まる音。
足音が遠ざかった。
少しして、靴を脱いだ。
財布を玄関に置いた。
ポケットには買い物メモが残った。
牛乳。
パン。
洗剤。
その下に一行だけ空いていた。
何を書くつもりだったのか思い出せなかった。
部屋へ戻る途中で、今日は誰かの誕生日だった気がした。
誰だったか思い出せなかった。
急に焦った。
スマホのカレンダーを開いた。
違った。
誰の誕生日でもなかった。
安心した。
それから、なぜか寂しくなった。
自分でも意味が分からなくて、少し笑った。
その笑い方が気持ち悪くて、すぐやめた。
窓を開けた。
暑かった。
閉めた。
閉めたあとで息苦しく感じた。
もう一度開けようとして、やめた。
時計を見る。
まだ7時台だった。
ずいぶん長く起きている気がした。
床に座った。
スマホが光った。
見なかった。
気になった。
見なかった。
結局、見た。
広告だった。
声が出るくらい笑った。
笑ったあと、急に何もなくなった。
スマホを伏せた。
テレビでは誰かがまだ喋っていた。
洗濯機は回っていた。
冷蔵庫はときどき低い音を出した。
立ち上がろうとした。
やめた。
水を飲もうと思った。
やめた。
顔を洗おうと思った。
やめた。
何か一つくらい終わらせようと思った。
机の上の封筒が目に入った。
裏返したままの封筒。
手を伸ばした。
指先が紙に触れた。
引っ込めた。
少しして、また触った。
今度はそのままにした。
口を開いた。
声が出た。
「誰か殺して」
自分の声なのに、少し遠かった。
テレビでは拍手が起きていた。
洗濯機が止まった。
スマホの画面が消えた。
しばらく何も動かなかった。
冷蔵庫がまた鳴った。
玄関には財布が置いたままだった。
片方の靴だけ、少し向きがずれていた。
机の封筒は、まだ裏返ったままだった。



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