Quiet Letter 8

夏の終わりの夕暮れ、蝉のいる木と住宅街を淡い水彩で描いたQuiet Letter 8のアイキャッチ

八月の終わりに送る手紙。

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今年の夏が終わった、としたら、あなたは何で気づくと思いますか?

私はたぶん、気づかないと思います。

最近、夕方に外を歩いていると、まだ蝉が鳴いています。

暑いです。

少し歩くだけで汗をかくし、家に帰れば冷たいものを飲みたくなる。

だから、まだ普通に夏です。

でも、少し前とは音が違います。

前はどこから鳴いているのか分からないくらい、全部まとめて蝉の声だったのに、最近は一匹ずつ聞こえることがあります。

あっちで鳴いている。

少し離れたところでも鳴いている。

その間を、車が通ったり、自転車のブレーキが鳴ったり、誰かが家の扉を閉めたりする。

しばらくすると、背中の方からも聞こえてくる。

夏が減っている、と言うと少し大げさかもしれません。

ただ、去年の最後の蝉を私は覚えていません。

最後にそうめんを食べた日も。

最後に冷房をつけた夜も。

今年初めて半袖では少し寒いと思った日も、たぶんその日には覚えていないと思います。

季節の最後って、案外そういうものなのかもしれません。

「今日で終わりです」と教えてくれない。

気づいたときには、もう次の季節の中にいる。

そう考えていたら、少しもったいない気がしてきました。

だからといって、夏らしいことをしようとはあまり思いません。

海へ行くとか。

花火を見るとか。

かき氷を食べるとか。

もちろん、それもいいけれど。

今日まだ蝉が鳴いていたとか。

コンビニから出たら外気にうんざりしたとか。

冷たい麦茶がおいしかったとか。

そういうものでも、十分今年の夏だったのだと思います。

何かが終わりかけているとき、つい「もう終わるもの」として見てしまうことがあります。

でも、まだあるものは、まだあります。

蝉は今日も鳴いている。

外は暑い。

グラスには水滴がついている。

だから、もう少しくらい、終わったことにしなくてもいいのかもしれません。

この手紙を書いている今も、まだ夏の途中です。

この夏、あなたのところにまだ残っているものはありますか?

たいしたものでなくて大丈夫です。

まだ冷蔵庫にアイスがあるとか。

夜になると虫の声が聞こえるとか。

サンダルをまだ片づけていないとか。

そういうものを一つ見つけられたら、それで十分だと思います。

私はもう少しだけ、蝉の声を聞いていようと思います。

その音を止めるリモコンを持っていないから。

またね。

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