誰かを好きになったからといって、一人だった頃の自分を全部終わらせなくてもいいと思う。
一緒にいる時間が増えても、その人の知らない場所で見つけるものや、誰にも渡さない時間が少しくらい残っていてほしい。
大切な人ができても、手放したくないものがある。
一人で歩く時間
行き先を決めずに歩く。
気になった路地に入って、途中で引き返して、誰にも説明せずに立ち止まる。
誰かと歩いているときには見えないものを、一人のときだけ見つけることがある。
あとで会ったとき、そのうち一つくらい話せたらいい。
誰にも見せない写真
撮った写真を、全部見せなくてもいい。
上手く撮れたわけでもない。
何を撮りたかったのか、自分でもよく分からない。
窓に残った水滴とか、誰もいない階段とか、夕方の壁に落ちた影とか。
誰かに見せるためではなく、自分がそこにいたことだけを覚えている写真を残しておきたい。
一人で映画を見ること
一緒に見る映画とは別に、一人で見る映画も持っていたい。
上映が終わっても、すぐ感想を言葉にしない。
好きだった場面も、よく分からなかった場面も、少しだけ自分の中に置いておく。
誰かの感想を聞く前の、まだ形の決まっていない時間が好きだ。
何もしない日
空いている休日を、全部予定で埋めなくてもいい。
昼まで寝て、遅い朝ごはんを食べて、気づいたら夕方になっている。
何も完成しなかった日。
誰にも会わなかった日。
そういう日まで、ちゃんと自分の生活に残しておきたい。
自分だけの場所
好きな場所を、全部共有しなくてもいいと思う。
一人で入る喫茶店。
考えごとをするときに歩く道。
何となく座るベンチ。
大切だからこそ連れて行きたい場所もある。
でも、大切だからこそ、誰も連れて行かない場所があってもいい。
理由を説明しない「好き」
どうして好きなのか聞かれても、うまく答えられないものがある。
古い椅子。
意味の分からない写真。
何度も聴いてしまう一曲。
名前も知らない建物。
理解してもらわなくても、好きなものは好きなままでいたい。
相手にも、僕には分からない「好き」が残っていてほしい。
自分の時間を選び直すこと
今日は出かけようと思っていたけれど、やっぱり家にいたい。
買おうと思っていたものをやめる。
行きたかった場所の手前で、違う道に曲がる。
約束を軽く扱いたいわけではない。
ただ、自分の時間まで、いつも昨日の自分に従わなくてもいいと思う。
まだ言葉にしない時間
何かあったとき、すぐには話せないことがある。
少し歩いてから分かること。
眠ったあとに気づくこと。
文章にして初めて見えること。
「どうしたの」と聞かれて、
「まだ分からない」
と言える余白を残しておきたい。
話さないことと、隠すことは、たぶん同じではない。
自分の人生を手放さないこと
意見を聞くことと、決めてもらうことは違う。
仕事も、つくるものも、これからの暮らしも、最後には自分で選びたい。
二人のことは二人で決める。
でも、自分の人生まで、相手に預けてしまわないようにしたい。
そして相手の人生も、僕のものにはしたくない。
まだ知らない部分
何年一緒にいても、全部を知り尽くさなくていい。
会っていない日に何を考えていたのか。
昔どんな場所へ行ったのか。
最近、何を好きになったのか。
ある日突然、
「そんなこと考えてたんだ」
と知ることが残っていてほしい。
知らない部分がなくなることより、これから知れる部分が残っていることのほうが、僕には少し嬉しい。
誰かを大切にすることは、二人の境界をなくしていくことではないと思う。
一人で歩く道があって、一人で見る映画があって、相手には分からない好きなものがある。
それぞれの一日を過ごして、また会ったときに少しだけ持ち寄る。
「今日、こんなものを見た」
そのくらいでいい。
ずっと一緒にいるために、ずっと一緒にいなくてもいい。
大切な人ができたあとも、その人に会う前から持っていた世界をなくさずにいたい。
そして、その人にも、僕の知らない世界を持ち続けていてほしい。
全部が重ならなくても、ときどき同じ場所に立てる。
たぶん僕が手放したくないのは、一人でいることではなく、
誰かを大切にしたあとも、自分の輪郭が残っていることなんだと思う。



コメント