悲嘆検索結果

夜の部屋でスマートフォンを見る人物と、消えかけたオンライン上の存在を表す光の影

私は、自分が死んだ時に悲しむ人間の数を調べることにした。

予想は3人だった。

結果は、まだ出ていなかった。

子供の頃から、彼は「手がかからない子供」だった。

先生はよく言った。

「君は本当に助かるよ」

忘れ物をしない。

騒がない。

困らせない。

頼まれたことを断らない。

褒められるたび、彼は少しだけ違和感があった。

助かる。

迷惑をかけない。

扱いやすい。

それは全部、

「いてくれて嬉しい」

とは違う気がした。

大人になってからも変わらなかった。

職場では問題を起こさない。

友人との予定では相手に合わせる。

母親からの連絡には、必要最低限しか返さない。

ある日、母親からメッセージが来た。

ご飯食べた?

数分後。

最近ちゃんと寝てる?

彼は画面を閉じた。

返信すればいいことは分かっていた。

でも、返信してしまったら。

その人は「自分がいなくなったら悲しむ人数」に入ってしまう。

それは公平ではない気がした。

母親だから。

家族だから。

義務だから。

本当の数字ではない。

きっかけは、SNSのフォロワー数だった。

目次

12,482

数字だけを見ると、それなりだった。

投稿すれば反応がある。

「いつも見ています」

「更新楽しみにしています」

「今日も生存確認できました」

そんなコメントもあった。

ある夜、彼は思った。

この12,482という数字の中に、自分が突然いなくなったら気づく人間は何人いるのか。

最初は暇つぶしだった。

匿名アンケートを作った。

あなたが明日突然消えた場合、悲しむ人は何人いると思いますか?

選択肢。

0人。

1〜3人。

4〜10人。

10人以上。

深い意味はなかった。

結果を見るだけだった。

回答は増えた。

1000件。

1万件。

10万件。

質問だけが広がった。

知らない人間が答えた。

「0人」

「家族だけ」

「分からない」

「考えたこともない」

彼は数字を眺めた。

みんな同じことを考えている。

自分がどれだけ世界に残っているか。

しかし、誰も答えていなかった。

彼が知りたいのは、

「何人いると思いますか」

ではなかった。

「本当にいるのか」

だった。

彼は自分のフォロワーを調べた。

12,482。

しかし、それは人間の数ではなかった。

複数アカウント。

見るだけのアカウント。

放置されたアカウント。

bot。

昔作られたまま忘れられたアカウント。

一人が何人にも見える。

何人もいるように見えて、一人かもしれない。

数字は嘘ではなかった。

ただ、意味がなかった。

彼には、毎日返信する人間がいた。

匿名掲示板の住人。

「生存確認」

という名前の投稿に、いつも短い返信を残す。

飯食え。

寝ろ。

気をつけろ。

彼は、その人を特別だと思った。

数字ではない一人。

しかし、その人にも理由があった。

その人物は夜勤の仕事をしていた。

帰宅後、眠る前に掲示板を見る。

彼の投稿がある。

返信する。

それが生活の一部になっていた。

助けているつもりはなかった。

ただ、毎日あるものだった。

彼も知らなかった。

その人自身も、彼の投稿がなくなると少し困る人間だった。

ただし、それは愛情とは違うものだった。

ある日、彼は事故に遭った。

大きな怪我ではなかった。

数日、投稿できなかった。

一日目。

何もない。

二日目。

何もない。

三日目。

通知。

最近投稿ないけど大丈夫?

生きてる?

珍しい。

彼は画面を見た。

胸が軽くなった。

やっぱりいた。

自分がいなくなったことに気づく人間がいた。

しかし、後から気づいた。

彼らが待っていたのは、

彼ではなかった。

毎日の投稿だった。

習慣だった。

いつもの時間に現れるものだった。

「生存確認」という名前の何かだった。

彼は匿名掲示板の相手に聞いた。

もし俺が死んだら悲しい?

しばらくして返信。

悲しいっていうか。

毎日見てたものがなくなるから困る。

彼は保存した。

何度も読んだ。

最後の集計を始めた。

条件を決める。

フォロワー。

除外。

閲覧者。

除外。

家族。

除外。

習慣。

除外。

義務。

除外。

残ったものだけを数える。

結果。

空白。

彼は最後の投稿を作った。

タイトル。

生存確認。

本文。

私が生きていて嬉しいと思う人は一体何人いますか。

投稿。

閲覧数だけが増える。

1万。

10万。

100万。

返信はない。

彼は胸に手を置いた。

そこに何かがあった。

名前もない。

数字にもならない。

誰にも見せられない。

ただ、自分だけが確認できるもの。

翌日。

掲示板が騒がしくなった。

「生存確認の人、消えた?」

過去の投稿が掘り返された。

知らない人間が語った。

「あの人毎日いたよな」

「返信したことある」

「気になってた」

数字は増えた。

閲覧数。

コメント数。

フォロワー。

彼が生きていた時より増えた。

最後の投稿に、一件だけ返信がついた。

1人。

投稿者名。

本人。

投稿日時。

死亡後。

予約投稿なのか。

誰かが書いたのか。

本人なのか。

分からない。

ただ、その数字だけが残った。

1。

それが人間なのか。

アカウントなのか。

記号なのか。

最後まで、誰にも分からなかった。

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