それぞれの時間をたどる13の物語。
05
心のお腹は、人ひとり分
妹の心のお腹には、二十八本の歯があった。
僕の名前だけは、噛まずに呑んだ。
12
黒く湿った、誰のものでもないあいだ
遥は学校へ行くとき、そこを通った。
灰色の猫をよく見かけた。
15~17
十五歳一名分、三か月後まで
疲れた日は、語彙が減る。
満腹になると、未来が遠ざかる。
19
1センチ先の紫音
信号が青になった。
誰も渡らなかった。
正確には、みんな渡っていた。
22
きょうがまだ帰ってこない
昨日のことは、全部覚えている。
でも、そこにいた自分だけが思い出せなかった。
24
出生時、私は複数形だった
赤の他人に、身体を預けたいと思う夜がある。
触れられたいのでも、治してほしいのでもない。
26
一度も触れられなかった
太ももの内側に、唇が触れた。
膝より少し上。
一度だけ。
29
傘をしまえない夜、私に恋愛は向いていない。
彼女は、恋愛が向いていないと思っていた。
けれど、それは誰かを好きになれないという意味ではなかった。
31
それから、手渡さなくなった
彼は、人との間にある距離を測ることが習慣になっていた。
近づきすぎない。踏み込みすぎない。
33
いらんけど、俺が持っとく
前の日、楽しみすぎて眠れなかった。
翌朝、目的地まで来たら、店は閉まっていた。
彼女は「臨時休業」の紙を読んで、僕より先に笑った。
35
最初から終わり方だけは分かっていた。
だからたぶん、彼女のことも好きだったのだと思う。
彼女と出会ったのは秋だった。
38
雨の匂いを返しに行く。
再会したのは3年後の六月だった。
雨が降っていた。
42
誤字は感情として扱われません
私の仕事には、泣いてはいけないという規則はない。
それでも、泣かない方がいい。


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