太ももの内側に、唇が触れた。
膝より少し上。
一度だけ。
離れたあと、そこだけ空気が冷たかった。
私は天井を見た。白い天井の隅に、小さな染みがある。
目を逸らす場所が、それしかなかった。
もう一度。
さっきより少し上。
唇が触れる前に、息がかかった。
その一瞬のほうが長かった。
シーツが鳴った。
脚がわずかに動く。
相手の髪が皮膚をかすめた。
顔が少し上がる。
息を吸う音が、すぐ近くでする。
「大丈夫?」
私は頷いた。
相手はすぐには顔を伏せなかった。
目が合った。
私のほうが先に天井へ戻った。
また唇が触れる。
少し上。
止まる。
離れる。
離れたところへ、今度は指先が触れた。
一度だけ。
指も離れた。
触れられていないところが、少し狭くなった。
そこだけまだ冷たかった。
私は脚を閉じかけた。
途中で止めた。
相手は何も言わなかった。
呼吸が近づく。
そのまま止まる。
私は長く息を吐いた。
見ないふりをして、天井の染みを見た。
唇が触れた。
今度は長かった。
離れる直前、温度がわずかに変わった。
私はシーツを掴んだ。
すぐに離した。
相手は何も言わなかった。
冷房が鳴っている。
遠くで車が走る。
布が擦れる。
その全部が聞こえていた。
相手の手が太ももに置かれた。
撫でない。
握らない。
手のひらの重さだけがある。
親指が少し動いた。
呼吸が止まった。
相手が顔を上げる。
目が合った。
視線だけが、しばらく動かなかった。
「嫌?」
私は首を横に振った。
目は逸らさなかった。
手は動かなかった。
そのまま数秒が過ぎた。
手のひら。
近い呼吸。
その少し先には何もない。
私は膝をわずかに動かした。
親指が、一度だけ皮膚をなぞった。
短い距離だった。
それで止まった。
私は天井を見た。
染みはまだ同じ場所にある。
相手の指が動く。
止まる。
また、ごくわずかに動く。
私は目を閉じた。
呼吸が近づいた。
そこで止まった。
もう一度、近づいた。
また止まった。
脚に力が入った。
抜いた。
少しして、また入った。
相手の手が離れた。
顔も離れた。
近くにあった匂いも、一緒に遠ざかった。
さっきまで塞がれていたところへ、冷房の風が触れた。
私は脚を閉じた。
布が戻る。
「水、飲む?」
私は頷いた。
マットレスが揺れた。
相手が離れていく。
グラスに水を注ぐ音がした。
私はまだ天井を見ていた。
唇があった場所から、熱が薄くなっていった。
手のひらがあった場所も、
指が触れた場所も、
しばらくすると分からなくなった。
最後まで残ったのは、
一度も触れられなかったところだった。


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