普通
ふつう。
特別ではないこと。
特別とは、普通ではないこと。
比較対象については記載なし。
普通の睡眠時間。
普通の食事量。
普通の働き方。
普通の友達の数。
普通の恋愛。
普通の家族。
普通の疲れ方。
普通の休日。
普通の人生。
数字のついているものは少なかった。
一人前
一人が食べる量。
一人については、個人差があります。
ラーメン屋で「普通」を頼むと、麺の量が決まっている。
美容院で「普通くらい」と言うと、だいたい伝わる。
酒の量を訊かれて「普通」と答えても、たいていそれ以上は訊かれない。
疲れているかと訊かれて、
「まあ、普通です」
と言う。
昨日より疲れている。
先週より眠い。
朝から何もしたくない。
それでも、
「普通です」
と言う。
普通は便利だった。
詳しく言わなくていい。
疲労
今日:普通
昨日:普通
一昨日:普通
三日前:休み
「最近どう?」
「普通」
「仕事は?」
「普通」
「体調は?」
「普通」
「楽しい?」
「普通」
「大丈夫?」
「普通」
ここまで来ると、何について答えているのか分からなくなる。
人並みに働く。
人並みに稼ぐ。
人並みに遊ぶ。
人並みに恋をする。
人並みに失敗する。
人並みに落ち込む。
人並みに立ち直る。
人並みという言葉を使うたび、どこかに基準がある気がした。
先頭は見えない。
最後尾も見えない。
けれど、ときどき、自分だけ遅れている感じがする。
現在地
人並みより少し下。
何の?
未回答。
同い年の人を見る。
自分より働いている。
別の人を見る。
自分より働いていない。
結婚している人がいる。
離婚した人もいる。
一人で暮らしている人がいる。
実家にいる人もいる。
毎週誰かと会う人がいる。
半年、誰とも会わない人もいる。
朝から元気な人がいる。
朝というものをほとんど見ない人もいる。
基準を探す。
見つからない。
人並み
人と同じ程度。
対象となる「人」を選択してください。
[ ]
……
同年代。
まだ多い。
同年代で、同じ地域。
少し減る。
同年代で、同じ地域で、同じくらい働いている人。
さらに、同じくらい眠って、同じくらい疲れて、同じくらい人に会って、同じくらい一人でいて、同じくらい将来を考えて、同じくらい考えない人。
一人残った。
自分だった。
比較結果
対象者:あなた
比較対象:あなた
差:あり
昨日より食べられない日がある。
昨日より長く眠る日がある。
先週できたことが、今日はできない。
今日は平気だった音が、明日はうるさい。
会いたかった人に会って、疲れる。
一人になりたかったのに、一人になると寂しい。
休みたいのに、何もしないと焦る。
出かけたいのに、出かける準備で疲れる。
同じ人間一名でも、毎日、同じ場所にはいない。
「みんなできてるよ」
という言葉を聞く。
みんなを見る。
範囲が広すぎて、顔が見えない。
みんな
人数:不明
内訳:不明
あなたを含むか:場合による
普通にできる。
普通は分かる。
普通なら大丈夫。
普通だったら。
普通の人は。
普通なら、これくらい。
「普通」が文頭につくと、その後ろの文章が少し命令に近くなる。
ある日、道の端に札が立っていた。
人並み 最後尾
誰も並んでいなかった。
しばらく見ていた。
誰も来なかった。
念のため、最後尾に立った。
待ち時間:普通
十分くらい経って、一人来た。
「ここ、何の列ですか」
「人並みです」
「何がもらえるんですか」
「分かりません」
その人は、私の後ろへ並んだ。
さらに一人来た。
その後ろへ並んだ。
気づくと、少し列ができていた。
誰も行き先を知らなかった。
「ここで合ってますか」
前の人に訊いた。
「たぶん」
「何の列ですか」
「人並み」
「何を基準に?」
前の人は振り返った。
「みんな並んでるから」
列が伸びた。
理由ができた。
人並み
現在の待機人数:47名
先頭:不明
目的地:不明
参加理由:前の人が並んでいたため
途中で何人か抜けた。
疲れた人。
予定がある人。
どうでもよくなった人。
自分の列を見つけた人。
抜けた人を見て、残った人が少し不安そうな顔をした。
「抜けてもいいんですか」
誰かが言った。
誰も答えなかった。
列には係員がいなかった。
一人が抜けた。
もう一人が抜けた。
そのあと、何人か続いた。
列が短くなる。
最後尾が近づいてきた。
最後には、自分だけになった。
札だけが残った。
人並み 最後尾
表を返してみた。
裏には、
小さな文字でこう書いてあった。
ここから先は、各自でお進みください。


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