途中のない途中

草や石、切り株、足跡など自然と暮らしの痕跡を描いた静かな短編風景

草がある。

細い葉が重なり、土はほとんど見えない。

葉の先に露がある。

丸い粒の中にも空がある。

風が通る。

草は同じ方へ傾く。

露は揺れる。

空も揺れる。

浅い窪みに水がある。

縁の草だけが低い。

鳥が降りる。

羽を閉じる。

嘴が水に触れる。

輪が広がる。

雲が崩れる。

鳥は飛ぶ。

水のそばに細い跡が二本ある。

一本は窪みに届いている。

一本は途中までしかない。

石がある。

角は丸い。

片側に苔が付いている。

蟻が近づく。

石を回り込む。

草の根元で止まる。

見えなくなる。

石がある。

水が石の脇を通る。

流れの向こうにも石がある。

水は浅い。

細い窪みがある。

底は乾いている。

草の根が一部だけ見えている。

郵便受けがある。

口は少し開いている。

中は暗い。

底までは見えない。

赤い塗装が剥がれている。

剥がれた場所だけ、光を返さない。

家がある。

窓は開いている。

机には紙が一枚ある。

紙の端だけが揺れる。

床には机の影がある。

椅子は窓の方を向いている。

床に四角い明るさがある。

窓は閉じている。

紙は動かない。

椅子はない。

戸口に靴が二足ある。

片方は泥で濡れている。

片方は乾いている。

爪先は同じ方を向いている。

廊下に濡れた足跡がある。

二つずつ続いている。

途中で一つだけ途切れている。

その先にはまた二つある。

床は乾いている。

壁の近くに、薄い泥の輪がある。

机にカップがある。

縁に薄い跡が付いている。

中には少しだけ水がある。

取っ手は窓の方を向いている。

棚がある。

一つだけ丸い空間がある。

周りには薄く埃が積もっている。

その場所だけ積もっていない。

器がある。

縁が少し欠けている。

水は半分ほど入っている。

底には丸い影がある。

窓の明るさが縁に触れている。

棚には丸い空間がある。

器は見えない。

奥の板に薄い輪が残っている。

壁がある。

白い面に細いひびが走っている。

ひびの先に窓がある。

窓の中には空がある。

壁に明るい四角がある。

その内側だけ塗装の色が違う。

ひびは途中で切れている。

枝だけが立っている。

葉はない。

枝の間に空がある。

地面には枝分かれした影がある。

風が吹く。

枝は揺れる。

影も揺れる。

光は地面まで届いている。

枝は見えない。

地面の一部だけ、細く暗い。

風が通る。

暗い形は動かない。

畑に苗がある。

葉はどれも同じ方へ傾いている。

一つの苗の脇だけ、土が低い。

そこに水が溜まっている。

木がある。

細い枝に小さな実が付いている。

幹の根元に、苗の札が立っている。

文字は土を向いている。

切り株がある。

年輪の途中に小さな穴がある。

穴には土がある。

細い芽が伸びている。

芽は短い。

葉は二枚ある。

地面には切り株の影がある。

芽の影は見えない。

椅子がある。

脚の一本だけ土へ沈んでいる。

座る場所に浅い窪みがある。

蔓が背もたれを登っている。

途中に花が一つある。

椅子は倒れている。

蔓は土の上を這っている。

花だけが壁の近くにある。

座る場所の窪みに水がある。

水面に空が映っている。

犬が通る。

立ち止まらない。

草が犬の腹に触れる。

影が道の端を進む。

犬は見えなくなる。

影だけが草の上に残る。

雲が動く。

影も動く。

道がある。

草は道の端まで伸びている。

中央だけ土が見える。

細い筋が二本続いている。

途中で一本になる。

草の中に壊れた玩具がある。

半分だけ土に埋まっている。

顔は地面を向いている。

背中には水が溜まっている。

片方の手だけ草の外に出ている。

草が揺れている。

土には浅い窪みがある。

窪みの形は玩具より小さい。

海がある。

壁がある。

水の届かない高さに貝殻が付いている。

壁の下には乾いた砂がある。

砂には波の形が残っている。

波は見えない。

壁は途中まで水に沈んでいる。

貝殻は見えない。

乾いていた場所を魚が通る。

魚の影が壁を横切る。

壁の向こうに草がある。

砂の波形が草の根元まで続いている。

草は濡れていない。

壁には白い線が残っている。

波が寄る。

砂が濡れる。

波が引く。

砂は濡れている。

砂は乾いている。

濡れていた場所に小さな貝殻がある。

海は見えない。

花が二つある。

白い花びらが開いている。

二本の茎は触れていない。

風が吹く。

花は同じ方へ傾く。

片方に虫が止まる。

二つとも少し沈む。

花が一つある。

茎は二本ある。

どちらにも落ちた花びらはない。

空に細い線がある。

端から端まで伸びている。

何にも触れていない。

鳥がその下を通る。

露にも細い線がある。

水面にも線がある。

露の線は短い。

水面の線は揺れている。

空の線はまっすぐである。

露が落ちる。

土に丸い跡ができる。

線は見えない。

空には細い線がある。

空に線はない。

露には二本の線がある。

水面には何も映っていない。

蟻道がある。

草の間を細く通っている。

土の粒が両側に寄せられている。

石の下へ続いている。

石の反対側にも道がある。

二本はつながっていない。

庭に穴がある。

浅く、丸い。

底に水がある。

水面に白いものが映っている。

穴の外にも白いものがある。

風が通る。

水面の白いものは崩れる。

外の白いものは動かない。

穴の底に土がある。

白いものは底にある。

外には何もない。

縁に二本の跡が付いている。

二本は途中で重なっている。

その先には続いていない。

洗濯物が揺れている。

風が吹くたび、布の間から壁が見える。

端に雀が止まっている。

布は揺れる。

雀は動かない。

庭を歩く者がいる。

草の間を見る。

石の脇を通る。

壁のひびに指を触れる。

切り株の前で足を止める。

郵便受けの口は開いている。

別の者が庭を通る。

椅子の窪みに触れる。

水を見る。

手を振る。

丸い輪が広がる。

切り株は見ない。

庭に足跡がある。

一人ぶんある。

石の近くで二人ぶんになる。

壁の前でまた一人ぶんになる。

戸口には続いていない。

雨が降る。

雨は見えない。

草は濡れている。

石は動かない。

壁には濃い筋がある。

椅子の窪みに空がある。

切り株の穴にも空がある。

器にも空がある。

足跡にも空がある。

雲が通る。

切り株の空も消える。

器の底だけが明るい。

雨は見えない。

低い場所に水がある。

水は見えない。

丸い跡がある。

丸い跡は見えない。

土の色だけが違う。

家がある。

戸口は開いている。

廊下に足跡がある。

二つずつ続いている。

戸口の手前で一つになる。

床は乾いている。

壁に四角い明るさがある。

壁は途中までしかない。

向こう側に草が見える。

光は地面まで届いている。

切り株がある。

穴から芽が伸びている。

葉が二枚ある。

一枚に露がある。

露の中に空がある。

草がある。

葉の間に浅い窪みがある。

底には丸い影がある。

水はない。

石がある。

蟻が近づく。

石を回り込む。

見えなくなる。

草がある。

前と同じ草ではない。

違う草でもない。

ただ、草がある。

しかし、それらを扱うためのものが、この世界にはなかった。

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