夜のあいだに、地面が陥没していた。
住宅街の外れにある空き地。
直径二メートルほどの穴の底に、白い翼を持つものが横たわっていた。
片方の翼は身体の下に折り込まれ、もう片方は斜面を覆っていた。
長い羽根の間には草の葉が挟まり、土に接した部分は灰色に変わっていた。
夜明け頃、指が動いた。
掌が湿った土を押した。
身体が起き上がるにつれ、下敷きになっていた翼が開き、重なった羽根の間から砂がこぼれた。
翼を畳み、穴の縁に手をかけた。
片足を引き上げると斜面が崩れた。
膝を地面につき、身体を前へ倒して残りの足を引き抜いた。
背中の翼が穴の縁を擦った。
数枚の羽根が抜け、底へ落ちた。
フェンスの向こうを始発のバスが通った。
翼を持つものは道路へ向かって歩き始めた。
穴の底には、身体の形に押し固められた土が残った。
三日後、空き地に作業員が入った。
穴の周囲に杭が打たれ、黄色いロープが張られた。
一人が底へ下り、散らばっていた羽根を拾い集めた。
長いものが七枚。短いものが十数枚。
泥を含んだ羽根は互いに貼りつき、持ち上げると何枚かがまとめて動いた。
作業員は羽根を黒い袋に入れた。
袋の口を結ぶ前に風が吹き、縁に付着していた短い羽根が一枚、地面へ落ちた。
穴の底に砂利が敷かれ、運び込まれた土が重ねられた。
小型の機械がその上を何度も往復した。
落ちた羽根は土の下に隠れた。
夕方には穴がなくなっていた。
翌朝、雨が降った。
埋め戻された部分に水が溜まり、周囲の草の根元まで広がった。
昼過ぎには、ほとんど引いていた。
黒い袋はほかの廃材とともにトラックへ積まれ、運び出された。
街の南側では、古い水道管の交換工事が続いていた。
舗装を剥がした道路に、長さ十数メートルの溝が掘られていた。
底には水が溜まり、土の壁から細い根が何本も露出していた。
ある朝、溝の端で土が崩れた。
黒ずんだ指が現れ、土を掴んだ。
腕が伸びた。
しばらくして、額が押し出された。
二本の角の間に挟まっていた小石が落ち、水の溜まった溝の底で跳ねた。
肩が現れた。
土の内側で身体が動くたび、周囲の地面に亀裂が走った。
片膝が溝の底につき、もう一方の足が地中から引き抜かれた。
崩れた隙間から砂が流れ込んだ。
角を持つものは溝の端に両手をかけ、身体を引き上げた。
濡れた足跡が舗装の上に続いた。
一つ目は深く、二つ目は浅かった。
数歩進むと水だけが残り、さらに歩くと足跡は見えなくなった。
午後、作業員が現場に戻った。
崩れた溝の壁に板を当て、露出した根を切断した。
新しい水道管の周囲に砂を詰め、掘り出した土を戻していった。
角の間から落ちた小石は、溝の底に残っていた。
砂がその上を覆った。
最後にアスファルトが敷かれ、道路は平らになった。
冬のあいだ、翼を持つものは街の北側を歩いていた。
狭い通路では翼が壁に触れた。
雨の日には羽根が水を含み、先端が地面を擦った。
軒下で翼を畳むと、羽根の間から水が落ち、足元に小さな染みができた。
晴れた日には、空き地のコンクリート塀に背中を向けて立った。
二枚の翼をゆっくりと広げた。
冬の風が羽根の間を抜け、重なっていた部分が乾いていった。
翼を閉じたあと、塀には白い繊維が数本残っていた。
次の雨で、繊維は地面へ流れた。
春になる頃には、長い羽根の先端が不揃いになっていた。
角を持つものは南側に留まっていた。
雨の日、排水溝の蓋の隙間から冷たい空気が吹き上がった。
角の先端についた水滴が少しずつ大きくなり、額を伝って落ちた。
車が通ると、足元の蓋が震えた。
やがて角を持つものは立ち上がり、地下鉄の入口へ歩いた。
階段の下から電車の音が聞こえた。
人々に続いて階段を下りた。
踊り場の天井から水が滴っていた。
コンクリートの床には浅い水たまりがあり、電車が通るたびに表面が細かく震えた。
壁に手をついた。
次の電車が到着し、水面が再び震えた。
しばらくして、反対側の階段を昇った。
地上では夕方の光が建物の間に差していた。
春の終わり、街の中央にある広場で水盤の清掃が行われた。
円形の水盤を囲む低い石の縁には、ところどころ黒ずんだ染みがあった。
水は抜かれ、底に残った砂と落ち葉が排水口の周囲に集まっていた。
午前中、白い翼が広場を横切った。
翼の先端が石の縁を擦り、羽根が一本、内側に落ちた。
翼を持つものは歩く速度を変えなかった。
羽根は乾いた水盤の底に横たわっていた。
正午過ぎ、清掃員が水盤に入り、底を洗い流した。
羽根は水に押され、排水口へ向かった。
細い羽軸が金属の格子に引っかかった。
水だけが流れていった。
清掃員は格子を外し、落ち葉と羽根を取り除いた。
容器の底には水が残っていた。
羽根はそこに浮いた。
午後、角を持つものが広場を通った。
清掃に使われた水が、石の縁を濡らしていた。
角を持つものはそこに手を置いた。
そばには容器があった。
風が吹き、水面が揺れた。
羽根が容器の壁に触れた。
角を持つものは水の中へ指を入れた。
羽軸に触れると、羽根が回転した。
指を引き抜いたあとも、羽根はしばらく回り続けた。
やがて容器の縁に寄り、止まった。
指先から水滴が落ちた。
角を持つものは広場を離れた。
清掃員が戻り、容器の中身を水切り用の網に移した。
羽根は濡れた落ち葉に貼りついた。
網の下から水が流れ出た。
残ったものは袋に入れられ、口が結ばれた。
夏になると、北側の空き地には草が伸びていた。
埋め戻された場所には背の低い草が密集し、その外側には細長い葉がまばらに生えていた。
草刈り機がその上を通った。
刈られた葉は細かな破片となって落ち、地面はほぼ同じ高さになった。
雨の翌朝、埋め戻された部分には水が溜まっていた。
午後には引き、砂の表面に細い溝が残った。
南側の道路では、アスファルトと縁石の隙間から草が伸びていた。
車が通るたびに揺れ、雨が降ると路面に倒れた。
やがて舗装の端に亀裂ができた。
数日後には、少し長くなっていた。
路面の下では雨水が埋め戻された砂を運び、小さな隙間を作っていた。
道路の端がわずかに沈んだ。
その上を人々が歩き、車が通った。
草は伸び続けた。
夏の終わり、広場の水盤に水が戻された。
循環ポンプが動き、底から吸い込まれた水が、縁に沿った噴出口から流れ出した。
水面には細かな波が続いていた。
午後、白い翼を持つものが広場へ来た。
水盤のそばで立ち止まり、片方の翼を持ち上げた。
羽根の先端が水面に触れた。
水が細い筋となって落ちた。
翼を畳み、広場を離れた。
数日後、角を持つものも同じ場所を通った。
水盤には近づかず、広場の端を横切って地下へ続く階段の前で立ち止まった。
下から冷たい空気が吹き上がっていた。
人々が階段を下り、別の人々が昇ってきた。
手すりに触れると、塗装の剥がれた部分が指先に当たった。
手を離し、地上の道を歩いていった。
秋の初め、北側の空き地からフェンスが取り外された。
建物を建てるための測量が行われ、地面に赤い印が付けられた。
数日後、掘削機が入った。
草と表土が取り除かれた。
以前に穴を埋め戻した場所では、ほかより浅いところから砂利の層が現れた。
機械の先端が地面を削った。
砂利に混じって、細く白いものが出てきた。
短い羽根だった。
羽軸は途中で折れ、細かな羽枝は泥で固まっていた。
機械が再び動くと、羽根は土とともに持ち上がった。
土は空き地の端に積まれた。
翌日、土砂を運ぶトラックが来た。
荷台に土が落とされ、羽根もその中に混じった。
トラックが走り出すと、積まれた土が振動で沈み、羽根は見えなくなった。
南側の道路では、沈んだ舗装が補修されていた。
切り取られたアスファルトの下から湿った砂が現れ、路面の下に生じた隙間へ新しい砂が詰められた。
作業員が表面をならした。
舗装材が敷かれ、ローラーが通った。
道路の端から熱い空気が立ち上がった。
縁石のそばには、掘り出した土砂が少し残っていた。
ほうきがそれを集めた。
小石が一つ、縁石に当たって止まった。
次にほうきが通ると、小石はほかの砂利とともにちり取りへ入った。
夕方、作業員が立ち去った。
新しい舗装には細かな凹凸が残っていた。
十月の終わり、雨が降った。
北側の空き地では基礎工事が進み、掘削された地面の上に鉄筋が組まれていた。
朝からコンクリートが流し込まれた。
振動機が差し込まれると、表面から気泡が浮かび上がり、次々と消えた。
南側の道路では、補修した舗装の上を車が通っていた。
黒い路面には雨水が薄く広がり、タイヤの跡が一瞬だけ現れては消えた。
街の中央では、二つの身体が別々の歩道を進んでいた。
白い翼は濡れた羽根を背中に畳んでいた。
二本の角には細かな水滴がついていた。
一方は広場を横切り、もう一方は交差点で立ち止まった。
信号が変わった。
人々が歩き始め、車が止まった。
夕方、北側の工事現場では、型枠の隙間から滲んだセメントが拭き取られた。
南側の道路では、縁石に沿って雨水が流れていた。
広場の水盤には雨が混じった。
水は排水口へ吸い込まれ、管を通り、再び水盤へ戻った。
夜になった。
建物の窓に明かりがついた。
雨はまだ降っていた。
翌朝、南側の道路は乾き始めていた。
縁石に沿って細い土の線が残っていた。
通りかかった人の靴底に砂が付着し、歩くたびに少しずつ落ちた。
北側の工事現場では、前日に流し込まれたコンクリートに散水が行われていた。
水は型枠の端を伝い、足元の低い場所へ集まった。
作業員が水を止めたあとも、しばらく表面が揺れていた。
やがて静かになった。
一枚の落ち葉が落ちてきた。
葉は水に浮いた。
風が吹き、少し動いた。
先端が型枠に触れた。
水位が下がるにつれ、葉の片側が濡れたコンクリートの縁に貼りついた。
午後、作業員が再びそこを通った。
葉はまだ残っていた。


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